「桜」と聞くと、日本の花というイメージがありますが、実際は日本を含めた北半球の温帯地域に広く見られる植物です。特に、日本では品種改良が盛んで、花見や入学・卒業シーズンの花木として好まれているため、世界でも「sakura」と呼ばれ、日本の象徴となる花になってきました。
ソメイヨシノなど、有名な園芸品種をはじめ、他にもたくさんの種類の桜が存在します。今回は、そんな桜の種類や品種についてご紹介します。
桜(サクラ)はどれくらいの種類や品種があるの?
桜は、日本だけでなく中国や台湾などアジア各地に生息する樹木です。日本国内だけでも固有種や交配種を含めて600以上もの品種が確認されています。
それらの種類は大きく8つに大別されており、今回はそれぞれの種類や代表的な園芸品種についてご紹介します。
種類名や分け方 | 説明 |
1. 自然交配や咲き方 | ソメイヨシノを始め、自然交配によって生まれた品種や八重桜、しだれ桜などの咲き方によって名づけられた桜です。 |
2. シナミザクラ群 | シナミザクラ群は、シナミザクラを交配したり、シナミザクラに近い生態をもったりする品種群のことです。現在では、中国南西部に7種ほど確認されています。 |
3. エドヒガンザクラ群 | エドヒガン(江戸彼岸)は、彼岸の頃に花を咲かせることから名付けられた原種の1つ。そのエドヒガンに生態が近しい桜をエドヒガン群と呼びます。早咲きで小さな花を咲かせます。見た目はヤマザクラに似ていますが、花びらの下についているガクの下部が膨らんでいるのが特徴です。 |
4. ヒカンザクラ群 | ヒカンザクラ群の特徴は、樹高があまり高くなく、低木~中高木になる種類が多いこと。下向きに花を咲かせるヒカンザクラに近しい生態をもった品種やヒカンザクラを交配した品種群を指します。 |
5. チョウジザクラ群 | 咲いた花びらが180度に広がり、丁字のように見える、チョウジザクラに似た品種やチョウジザクラの変種をチョウジザクラ群といいます。ガクの筒状の部分が大きく、花が小さいのが特徴です。 |
6. マメザクラ群 | マメザクラ群は、「豆桜」の名の通り、花びらが小さく、樹高も高くならないことが特徴の分類です。花や葉が小ぶりで、中には開花期を複数回迎える品種もあります。 |
7. ミヤマザクラ群 | ミヤマザクラ群は、小さな花がまとまって咲くミヤマザクラに近い品種の分類です。ガクが反り返って花を咲かせる特徴をもっています。 |
8. ヤマザクラ群 | ヤマザクラ群は、日本の野生原種の1つ、ヤマザクラを交配したり、ヤマザクラに近い品種群のことです。花と葉が同時に咲く特徴をもち、開花期が似ているソメイヨシノと区別することができます。 |
1. 自然交配や咲き方で分けられている桜の種類
ソメイヨシノ(染井吉野)
ソメイヨシノは、江戸末期~明治初期頃から栽培されているサクラの園芸品種です。
江戸時代に染井村の造園師や植木職人がオオシマサクラとエドヒガンを交配させてできたといわれ、日本でも有名な品種の1つになりました。
現在、日本で栽培されているソメイヨシノの全ては、クローン(挿し木や接ぎ木などでの繁殖)によって増やされたため、気温の違う地域でも一斉に開花すること、葉が出る前に5枚の花びらが咲くことが特徴です。
また、韓国起源説といって、韓国から伝わってきた品種だという一説があります。しかし、2011年、DNA鑑定の結果、韓国のソメイヨシノ(王桜)とは別種だということがアメリカ農務省から発表されたことにより、日本固有とする説が濃厚だといわれています。
ヤエザクラ(八重桜)
ヤエザクラとは、八重咲きになる桜の総称です。人里に咲くことが多いため、「サトザクラ(里桜)」とも呼ばれます。有名な園芸品種には、「カンザン」「フゲンゾウ」「ヤエベニシダレ」などがあります。
2. シナミザクラ群
シナミザクラ(支那実桜)
シナミザクラは、中国原産の品種です。実が食用にされ、酸味が強いことから別名「カラミザクラ(唐実桜)」とも呼ばれています。3月の上旬から咲きはじめ、雄しべが長く、2cmほどの小さな花びらが特徴です。
3. エドヒガンザクラ群
エドヒガン(江戸彼岸/立彼岸/東彼岸/婆彼岸)
エドヒガンは、春の彼岸(3/20の前後3日間)頃に花を咲かせる桜です。日本から朝鮮半島へと伝わって、現在では本州・四国・九州、朝鮮半島に広く分布しています。
性質が強く、品種の中でも樹齢が長いのが特徴です。人工や自然交配によって、長寿な性質を受け継いだ園芸品種が日本各地で古木・巨木となっていますよ。
シダレザクラ(枝垂桜/糸桜)
シダレザクラは、枝が柔らかいため、自身の重みで枝垂れる桜の総称です。中でも、エドヒガンの変種が多いことから、エドヒガンザクラ群に分類され、「ヤエベニシダレ」「ベニシダレ」などの園芸品種が有名です。
4. ヒカンザクラ群
ヒカンザクラ(緋寒桜/元日桜/台湾桜)
ヒカンザクラは、中国南部や台湾などの東南アジア、日本に生息する種類の桜です。日本国内では、沖縄で野生化しているため、沖縄県での桜は主にヒカンザクラを指します。
寒さに弱く、寒冷地ではあまり育たない代わりに耐暑性があり、カンパニュラのような下向きの花を咲かせるのが特徴です。
カンザクラ(寒桜)
カンザクラは、小輪でピンク色の一重の花を咲かせる品種です。暖かい場所では1月中旬頃から花を咲かせます。熱海によく咲いていることから、「熱海桜(アタミザクラ)」とも呼ばれます。
5. チョウジザクラ群
チョウジザクラ(丁字桜/メジロザクラ/フジモドキ)
チョウジザクラは、宮城県の太平洋側や長野県南部、静岡県北部にかけて分布します。3月下旬から4月下旬にかけて小さく大人しい花をちらほらと咲かせる桜です。
ただ、葉や新芽、枝が目立つため観賞用には向かないといわれ、栽培されることはほとんどありません。
そんな中でも、変種や園芸種は観賞用に向いていて、「ミヤマチョウジザクラ」「オクチョウジザクラ」などが有名です。
6. マメザクラ群
マメザクラ(フジザクラ/豆桜/箱根桜)
マメザクラは、本州中部の太平洋岸という狭い地域に分布する品種です。別名「フジザクラ(富士桜)」や「箱根桜」とも呼ばれるように、富士山麓など山野近辺でよく見られます。
マメザクラは変異しやすい性質があり、北陸から中国地方の日本海沿岸に分布するキンキマメザクラやフユザクラ、チシマザクラやタカネザクラも変種によって生まれました。
タカネザクラ(高嶺桜/ミネザクラ/峰桜)
タカネザクラは、奈良県より北の本州、北海道の亜高山帯に分布するマメザクラの変種です。平地では早く開花しますが、自生地している山地では、5月下旬~6月頃に開花します。
別名「ミネザクラ(峰桜)」とも呼ばれ、高山地帯など比較的涼しい気候を好むのが特徴です。
フユザクラ(冬桜/小葉桜)
中輪で白~淡いピンクの一重の花を咲かせるのがフユザクラです。冬と春の2回開花するのが特徴で、葉っぱが小さいことから、「コバザクラ(小葉桜)」という別名でも親しまれます。
11〜12月に開花のピークを迎え、3〜4月頃に葉っぱをつけながら、2回目の開花期を迎えます。
7. ミヤマザクラ群
ミヤマザクラ(深山桜/シロザクラ)
ミヤマザクラは、北海道から九州にかけて広く分布する品種です。5~6月の遅めの時期に開花し、「シロザクラ」という別名を持つとおり、白い花を咲かせます。
落葉高木なので、自然に育つと10m近くまで生長することも。花びらの中に、褐色の毛が密生する特徴を持ちます。
8. ヤマザクラ群
ヤマザクラ(山桜/吉野の桜)
ヤマザクラは、宮城より西側の本州、四国、九州に分布する、西日本で見られる桜の品種です。ソメイヨシノが登場するまでは、花見の桜としてヤマザクラが有名でした。
有名なヤマザクラといえば、奈良県吉野にある「吉野の桜」などがあります。大きくなると樹高が30m近くまで生長し、丈夫な性質から家具の材料など、木材としても人気が高い桜です。
オオヤマザクラ(大山桜/紅山桜/蝦夷山桜)
オオヤマザクラは、北海道・北日本・四国に分布する桜の品種です。北海道で桜というと、主にオオヤマザクラのことを指します。
耐寒性があり、ヤマザクラよりも花びらや葉っぱが大きいのが特徴で、別名、ベニヤマザクラやエゾヤマザクラとも呼ばれます。
カスミザクラ(霞桜)
カスミザクラは、主に北海道や本州する品種です。まれに、四国・九州でも見ることができます。野生種の1つで、15〜20mほどの樹高に生長し、5月頃になると白く大人しめの花を満開に咲かせます。
ヤマザクラに比べて、緑の葉っぱをつけた状態で開花していることが多く、花や葉っぱに細かい毛が生えているのが特徴です。
オオシマザクラ(大島桜)
オオシマザクラは、主に伊豆諸島や房総半島などの沿岸部に分布する日本の野生種です。東北地方で種が見られます。品種改良によく利用され、葉は桜餅に使われています。白い花びらが特徴で、淡い香りを放ちます。
種類は多くても日本の桜の80%はソメイヨシノ
細かな種を合わせると数百以上も存在する桜。しかし、日本の桜の多くはソメイヨシノであり、また挿し木などで増やしていったクローンであるため、開花時期が近いという性質があります。
ソメイヨシノ以外の桜を見つけること自体珍しいことなので、出会えたときはぜひ、花びらの形や大きさ、色の違いなどを探してみてくださいね。
桜(サクラ)の豊富な種類を楽しもう
春になると色々なところで見られる桜ですが、思っていた以上に種類が豊富なことにびっくりした方も多いのではないでしょうか。
園芸の花木としては、低木~中高木に分類されるので、庭のスペースに余裕のある方は、桜を植えて春を楽しんでみてくださいね。
更新日: 2022年05月18日
初回公開日: 2016年03月04日