菊は、イエギクと呼ばれるキク属の植物の総称です。日本では、皇室の紋にも定められ、品格の象徴とされてきました。また、19世紀に入ると海外へと渡り、日本の菊とは違った品種が作るようになりました。そのため、ひとくちに「菊」といっても、色や見た目は様々。そこで今回は、菊の種類や品種についてご紹介します。
菊(キク)の種類や品種とは?
菊は中国原産で、2,000年以上前から薬用や食用として栽培されていきました。日本へは8~9世紀頃に伝わり、平安時代以降に観賞用として栽培されるようになりました。
もともとは上流階級の間で楽しまれていましたが、安土桃山時代から江戸時代にかけて庶民の間に普及し、たくさんの品種が生み出されました。
また、江戸時代には欧米へと渡り、アメリカと西ヨーロッパで独自の発展を遂げます。日本で作られた品種を「和菊」、欧米で作られた品種を「洋菊」と大きく2つに分けられます。今では、世界中にたくさんの菊の品種があり、切り花やアレンジメント、鉢植え、花壇植えなど様々な方法で楽しまれています。
和菊の種類や品種とは?
江戸時代に創りだされた「古典菊」と、花びらのサイズごとに「大菊」「中菊」「小菊」があります。特に明治時代以降は「大菊」が盛んに作られ、今でも菊花展覧会など多くの品評会が各地で行われています。以下に、それぞれの特徴と代表的な品種をご紹介します。
■ 古典菊
江戸菊
江戸(東京)を中心に発達した古典菊の代表的な品種です。当時は「中菊」といえば本種を指すほど庶民に親しまれており、「正菊」と称されるほど中心的な存在でした。
菊は本来秋に咲きますが、江戸菊は季節外れに咲く狂い咲きが多く、咲き進むにつれて花びらの形が変化することから「狂い菊」「舞菊」「芸菊」とも呼ばれます。
嵯峨菊
大沢池の菊ケ島に自生していた野菊を元に、京都の嵯峨野で育成された品種です。細長い一重咲きの花びらが、毛筆のように直立します。最も古い系統をひく古典菊として日本三大名菊に名を連ねており、伊勢三大珍花の伊勢菊も本種から作られたものです。
美濃菊
岐阜県南部にあたる美濃地方で発達した品種で、羽島市北部に自生していた野菊を元に生み出されたことがはじまりです。その後、岐阜県羽島市の太田正吾氏が長い間かけて品種改良に取り組み、現在の形になったとされています。蓮に似た大きな花びらを八重咲きにすることが特徴です。
肥後菊
肥後六花の1つに数えられる熊本発祥の古典菊です。大輪で花びらの厚いものが好まれた当時の流行と逆行し、20~30枚の一重咲きの花びらをまばらに付けます。素朴さが好まれ、古くは江戸菊と人気を二分したとされています。
伊勢菊・松坂菊
伊勢地方で作られた品種群で、大輪のものを「松坂菊」、中輪のものを「伊勢菊」と呼びます。糸のように細い花びらが縮れながら垂れ下がっている姿がユニークです。かつては座敷に正座して観賞されていたことから、草丈が低いことも特徴です。
■サイズ別の和菊
大菊
花の直径が18~20cm以上の和菊を指します。見た目に重厚感があることから、1つの茎に1輪の花を残す「三本仕立て」で楽しまれることが多い種類です。花の形によっていくつかの種類に分けられます。
● 厚物(あつもの):花びらの先端が中心に向かって盛り上がっているもの
● 厚走り(あつばしり):厚物と似た姿で、外側だけが細長く垂れ下がったもの
● 大掴み(おおつかみ):花の上部分が両手を掴んだような形をしており、外側の花びらは垂れ下がっているもの。奥州地方で発達したことから、「奥州菊」とも呼ばれる
● 管物(くだもの):管状の花びらが花火のように放射線状に広がっているもの。管の大きさによって「太管」「間管」「細管」の3つに分けられる
● 一文字:一重咲きで、皇室の紋にもなっていることから「御紋章菊」とも呼ばれる
中菊
花の直径が9~18cmの和菊を指し、仏花や切り花に重宝されます。古くは「江戸菊」に限定される呼び名でしたが、現在は古典菊のほか、スプレーマムなどの洋菊が含まれることもあります。産地それぞれの個性豊かな花姿が魅力です。
小菊
花の直径が9cm未満の和菊を指します。昔は、文人作りという盆栽として育てられており、文人菊と呼ばれることもありました。
鉢や花壇で育てられるほか、ミニ盆栽など色々な仕立てで楽しめます。懸崖作りや杉作り、直幹仕立てや双幹仕立てなど、様々な種類の楽しみ方があるのも、小菊の特徴です。
洋菊の種類や品種とは?
スプレーマム(スプレー菊)
欧米で生み出された種類です。茎がよく枝分かれし、3~6cmほどの花をたくさん付けます。花色が豊富なほか、鉢植え用の「ポットマム」や、草丈の短い「クッションマム」、球形の花を咲かせる「ピンポンマム」など、見た目も様々です。
その他の菊(キク)の種類や品種とは?
■ 食用菊
延命楽(えんめいらく)
紫色の八重咲き中輪の菊で、奈良時代にはすでに食用にされていました。食用菊の全国シェア1位の山形県では「もってのほか」、弥彦の菊まつりで知られる新潟県では「カキノモト」「おもいのほか」などとも呼ばれます。
阿房宮(あぼうぎゅう)
スタンダードな黄色の八重咲き大輪種です。花びらを蒸して海苔状に干した菊のりは、青森県八戸市の特産品となっています。
菊(キク)は和菊や洋菊など様々な種類や品種がある植物
古くは、菊といえば黄色や白色が主流でしたが、現在では赤、ピンク、オレンジ、紫、緑、複色など様々な花色が楽しめます。これほどまでにたくさんの種類や品種が生まれたのは、美しさを追求するほどに奥深い植物であることが大きいようです。
また、丈夫で花付きがよく、開花期間が長いことも海外で人気の理由。自分好みの菊を見つけて、栽培して楽しんでみてください。
更新日: 2021年08月04日
初回公開日: 2016年01月06日